代理店賠責セミナー2023開催
大阪代協Webセミナー「代理店賠償責任保険の備えが必要です」が、8月29日(火)午後3時から、開催されました。集合形式の参加を含めると、大阪・兵庫併せて300名を超える代理店、保険会社社員の皆さんが熱心に耳を傾けました。講師は、日本代協新プラン委託講師の杉山幹久氏です。
新谷会長挨拶
開催にあたり、新谷香代子会長が挨拶に立ち「私たちの身の回りでは、自然災害やサイバー等、リスクが至る所で社会問題化しています。損害保険に関わる者の役割はますます重要になり、注目が集まっています。今こそ、私たちはその使命を果たすために一層の力を発揮すべきだと考えます。しかし、保険金をお支払いしてお客様の役に立つ一方で、トラブルも数多く発生しています。損保ADRには年間3万件を超える苦情、相談が寄せられています。代理店賠責の引受会社であるChubb損害保険には年間1千件を超える相談があり、150件ほどの事故報告があるそうです。さらに、最近気になるのは賠償請求額、訴訟額の高額化です。代理店、保険会社に対して1億円を超える訴訟が発生したり、保険会社が代理店に数千万円の求償を行った、といった話も聞き及んでいます。本日参加の保険会社の社員の皆様には、保険会社、代理店のお互いのためにも代理店賠責に加入いただくよう代理店にお勧めください。代協に未加入の代理店様も同様です。これを機会に是非ご検討ください」と、代理店賠償責任保険への加入を呼びかけました。
代理店の賠償責任と体制整備
冒頭、杉山氏は、Chubb損害保険には今年7月末までの直近1年間に全国の代理店から1400件、1日に6件、自らの保険募集行為に関する相談があったと話し、いかに日常的にトラブルが発生しているかを指摘。日本代協の約89%にあたる9715代理店(募集人約9万8千人)が同保険に加入していることを考えると、約14%の会員代理店がヒヤッとした経験をしているという実情を述べました。
セミナーでは、損保代理店のコンプライアンスについて、元金融庁長官の五味廣文氏の「コンプライアンスは、『知識』よりも『意識』が根付いているかが本質である」というコメントを紹介。基本的なルールを定めた法律として、2008年に成立した「保険法」により告知義務の概念が大きく変わり、2016年に施行された改正「保険業法」によって代理店は意向把握義務など各種義務を負うことになり、保険募集、代理店経営のハードルが高くなったと述べました。そして、代理店へのヒアリング後における関東財務局の「ルールの本質をしっかり理解していないと、環境変化に十分対応、改善ができない」という見解とともに、代理店の実態に応じて監督指針は改定されると話しました。
保険募集の基本的ルールである意向把握義務については、従来の意向確認に加え、募集プロセスにおいて、顧客ニーズに合致した保険商品を適切に選択・購入できるようにするための対応が求められるとし、ある全国規模の代理店が実践している「3プラス1運動」を紹介。1人のお客様に1回2時間の説明を3回行ってから契約へと導き、さらにその後にお客様に届いた保険証券を持って来店していただき、そこでお客様の意向と契約内容が合致しているかをもう一度説明するといった、予習・復習的に意向把握する取り組みが求められると述べました。
また、情報提供義務は、原則として「契約概要」「注意喚起情報」を記載した書面(例:重要事項等説明書)等を用いるなどの一律・画一な手法で行われるべきとし、特に重要事項説明書を常備・携行しこれを提示しながらお客様に説明することの重要性を強調。商品改定時などに生じやすい「つい・うっかり・うろ覚え」は虚偽説明につながるとし、これによって代理店が敗訴した裁判事例を紹介し注意を促しました。
続いて、代理店と法律上の責任について、代理店賠責の対象となるのは過失等により第三者に損害を与えたときに発生する民事上の責任であり、刑事上の責任や行政上の責任は対象とならないと説明。また、保険業法第283条で定められた「所属保険会社の賠償責任」について言及し、保険会社は保険募集人が保険契約者に加えた損害を賠償する責任を負っているが、近年は「保険会社が代理店委託の際に、相当の注意をし、かつ代理店の保険募集について保険契約者に加えた損害の発生防止に努めたときには、その責任を問われない」(同上2項)ことから、保険会社が自社の無責を主張し、代理店に直接責任を負わせるケースが増えてきている点は注目だと述べました。
そして、民事上の責任の根幹をなす「不法行為責任」「債務不履行責任」、さらに「信義誠実の原則」を解説。「信義誠実の原則」に基づく賠償責任の裁判事例として、満期更改時に代理店が保険契約者の信頼に反する行動をしたとして2割の過失を負った東京地裁等の判決を紹介しました。
具体的なトラブル事例を挙げた後、杉山氏は「言った、言わない」「口座振替不能」「事故受け付け時に無責のものを有責であると回答した場合」によるトラブルは法律上の賠償責任を問われることは比較的少ないと述べる一方、「オールリスク」「すべて同じかそれ以上」という言葉は何かあったときにトラブルにつながりやすく避けた方がいいとアドバイスしました。
そして最後に、「事故相談機能」「保険金準備機能」を備えた代理店賠償責任保険は保険募集において必要不可欠であると訴えるとともに、その遡及日に十分注意して加入してほしいと結びました。
大阪代協会員の代理店賠責事故事例
引き続いて、組織委員会の守屋仁志委員長が大阪代協におけるトラブル事例5つ(①バイクの車両入替時に自賠入替漏れ事案 ②構内作業車両の自賠分未対応事案 ③約款変更に伴う無責事案 ④損害調査時建物破損求償事案 ⑤ファミ賠特約現車未確認事案)について、ヒヤリハットあるいは普段想定していないが誰にでも起こり得る事例とトラブルを避けるための注意点を説明するとともに、重ねて保険会社、代理店に代理店賠償責任保険加入への協力を求め閉会となりました。
(記事:新日本保険新聞社)