代理店賠責セミナー2024開催
大阪代協Webセミナー「体制整備と代理店の賠償責任」が、8月27日(火)午後3時から、開催されました。大阪、兵庫、和歌山の各代協を併せて500名を超える代理店、保険会社社員が熱心に耳を傾けました。講師は、日本代協新プラン委託講師の杉山幹久氏です。
開催にあたり、新谷香代子会長が挨拶に立ち「私たちの身の回りでは、リスクが至る所で社会問題化しています。損害保険に関わる者の役割はますます重要になり、注目が集まっています。しかし、保険金をお支払いしてお客様のお役に立つ一方で、トラブルも数多く発生しています。損保ADRには年間約3万件の苦情、相談が寄せられています。代理店賠責の引受会社であるChubb損害保険には年間1千件を超える相談があり、150件ほどの事故報告があるそうです。さらに、最近気になるのは賠償請求額、訴訟額の高額化です。代理店のちょっとしたミスから巨額の損害に発展し、保険会社が代理店に数千万円の求償を行ったという信じられない話も聞き及んでいます。本日ご参加の保険会社社員の皆様、保険会社、代理店のお互いのためにも代理店賠責に加入いただくよう代理店にお勧めください。代協に未加入の代理店様も同様です。代理店賠責に未加入で保険を販売するのは無保険のまま自動車を運転するようなものです。保険を販売する側の代理店が、募集上のリスクを軽視してはいけません。この機会に是非ご検討ください」と、代理店賠償責任保険への加入を強く呼びかけました。
セミナーの冒頭、杉山氏は、Chubb損害保険には今年7月末までの直近1年間に全国の代理店から1400件、1日に6件、自らの保険募集行為に関する相談があったと話し、いかに日常的にトラブルが発生しているかを報告。日本代協正会員の約89%にあたる約1万代理店が同保険に加入していることを考えると、約14%の会員代理店がヒヤッとした経験をしているという実情を述べました。
第1部の「損保代理店のコンプライアンス」では、元金融庁長官の五味廣文氏が「コンプライアンスとは?」との質問に対して回答した「コンプライアンスは、『知識』よりも『意識』が職員に根付いているかが本質である」というコメントを紹介。そして、関東財務局が代理店に行ったアンケート、ヒアリング後に示した「ルールの本質をしっかり理解していないと、環境変化に十分対応、改善ができない」という見解とともに、代理店の実態に応じて監督指針は改定されると話しました。そして、1995年の改正「保険業法」をはじめ、告知義務の概念を大きく変えた2008年の「保険法」の制定、2016年に施行された改正「保険業法」までの流れを解説しました。とりわけ2016年の改正によって代理店は意向把握・情報提供・募集人体制整備といった各種義務を負うことになり、保険募集、代理店経営のハードルが高くなったと強調しました。また、2007年の監督指針で示された「契約者は自身に最適な商品の推奨を販売者(保険会社・代理店)に期待してもよい存在とされた」点に触れ、保険募集環境が時代とともに変化していることを挙げました。
2016年の改正「保険業法」における意向把握義務については、従来の意向確認に加え、募集プロセスにおいて、顧客ニーズに合致した保険商品を適切に選択・購入できるようにするための対応が求められるとし、『ほけんの窓口』が実践している「3プラス1運動」を紹介。1人のお客様に1回2時間の説明を3回行ってから契約へと導き、さらにその後にお客様に届いた保険証券を持って来店していただき、そこでお客様の意向と契約内容が合致しているかをもう一度説明するといった、予習・復習的に意向把握する取組みが求められると述べました。
また、情報提供義務は、原則として「契約概要」「注意喚起情報」を記載した書面(例:重要事項等説明書)等を用いるなどの一律・画一な手法で行われることであるとし、特に重要事項説明書を常備・携行しこれを提示しながらお客様に説明することの重要性を強調。中途更改や自動車保険における中断再開時に重要事項等説明書の提示を忘れることが多いことに注意喚起しました。また、商品改定があった際には「つい・うっかり・うろ覚え」によって虚偽説明につながりやすいとし、これによって代理店が敗訴した裁判事例を紹介し注意を促しました。合わせて保険会社に対して、補償金額・範囲の縮小等、お客様にとって不利になる改定ほど代理店への情報提供を的確に行ってほしいと要望しました。
第2部では「代理店と法律上の責任」について解説。代理店賠責の対象となるのは過失等により第三者に損害を与えたときに発生する民事上の責任であり、刑事上の責任や行政上の責任は対象とならないと説明。また、保険業法第283条で定められた「所属保険会社の賠償責任」について言及し、保険会社は保険募集人が保険契約者に加えた損害を賠償する責任を負っているが、近年は「保険会社が代理店委託の際に、相当の注意をし、かつ代理店の保険募集について保険契約者に加えた損害の発生防止に努めたときには、その責任を問われない」(同上2項)ことから、保険会社が自社の無責を主張し、代理店に直接責任を負わせるケース、求償権を行使するケースが増えてきている点は注目だと述べました。
そして、民事上の責任の根幹をなす「不法行為責任」「債務不履行責任」、さらに「信義誠実の原則」を解説。「信義誠実の原則」に基づく賠償責任の裁判事例として、満期更改時に代理店が保険契約者の信頼に反する行動をしたとして2割の過失を負った東京地裁(1994年3月11日)の判決等を紹介しました。
各種保険の具体的なトラブル事例を挙げた後、杉山氏は「言った、言わない」「口座振替不能」「事故受け付け時に無責のものを有責であると回答した場合」によるトラブルは法律上の賠償責任を問われることは比較的少ないと述べる一方、「オールリスク」「すべて同じかそれ以上」という言葉は何かあったときにトラブルにつながりやすく避けた方がいいとアドバイスしました。
そして最後に、「事故相談機能」「保険金準備機能」を備えた代理店賠償責任保険は保険募集において必要不可欠であると訴えるとともに、その遡及日に十分注意して加入してほしいと結びました。
セミナー終了後、組織委員会の守屋仁志委員長が「セミナーで代理店賠責の有用性が十分おわかりいただけと思います。代協では最新の情報をご提供しています。ぜひご加入いただき、今後のご自身の補償と情報共有をもって取り組んでいただきたい。また、保険会社の皆様には未加入の代理店さんに今回の内容をお伝えいただき、代協への入会、代理店賠責への加入を勧めていただきたい」と挨拶し、全日程を終えました。
(記事:新日本保険新聞社)